東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センター

生命のアーキペラゴ

生命のアーキペラゴ

海・生命のスープ、この場所はいろんな生き物たちの生死が繰り返され溶けている。
私たちの吸う酸素の半分は海の中のプランクトンが、もう半分は森が作っている。
私たちの身体の中にも自然が存在する。
私たちは世界のほんの一部。
何千、何万もの生き物たちによって私たちの身体は作られ、宇宙はこの身体の中にも存在している。そして地球もまた、宇宙の細胞なのかもしれない。
アーキペラゴ、多数の島からなる海域。
島はそれぞれ特有の意識を持ちながら、海の中を共有している。
多様性の生み出される場所。

大小島真木

 国際沿岸海洋研究センターが大槌町の高台へと引っ越した2018年、現代画家の大小島真木さんが、センターのエントランスの天井に絵を描いてくださいました。その名も「生命のアーキペラゴ」。下の写真が「生命のアーキペラゴ」の全体象です。この作品には、大槌の海にいる様々な生物が登場しており、写真の中の生物をクリックすると、その生物の説明を見ることができます。また、センターでは、平日9時~17時まで「生命のアーキペラゴ」を無料で公開しています。ちょっとした休憩スペースやトイレもございますので、ぜひ、センターにお立ち寄りいただき、天井に描かれた「生命のアーキペラゴ」を生で見てみてください。






ウィルス T4バクテリオファージ

ウィルスが生物以外に分類されていたのを「えっ」と思った方もいらっしゃるかと思います。一般的な生物の定義は、「自己増殖能力」、「エネルギー変換能力」、「自己と外界との明確な隔離」の三つを満たすこととされており、ウィルスは物質交換できる細胞膜を持たず、ミトコンドリアのようなエネルギー変換装置も持たないので、明らかに2つは当てはまりません。複製に関しては他の細胞機能を用いて行うので、微妙ですが、寄生生物のことを考えれば、一応自己複製はできると考えます。生物でないとすれば、複製能力を持った化学物質となるわけですが、ウィルスは我々と同じ遺伝物質(DNA,RNA)を持ち、生存(増殖)戦略を持ち、時間とともに変異し進化する粒子は、最小でもっとも単純な生物だと、私は考えます。我々の遺伝子の中には、ウィルス起源と考えられる遺伝子配列が多く見られます。昔、感染性のウィルスとして侵入したものが、居心地が良かったのか、そのままいつ居てしまった、または人がそれを利用していると考えられます。こうなると、これらの遺伝子配列を独立した生物とは見るのは難しくなりますが、例えば、これらの遺伝子配列が、トロイの木馬のようにある日、増殖を開始し、体外に出てきたら、やはり生物と感じますね。生物と非生物の微妙な境界です。もう一つ生物と非生物の境界に近い位置にあるのが、病原性プリオンです。病原性プリオンは、狂牛病、クロイツフェルト・ヤコブ病の病原物質で、脳などに局在する蛋白質プリオンが、病原性プリオンが侵入すると、立体構造の異なる病原性プリオン変わってしまい病気を引き起こします。病原性プリオンは、ウィルスのような自己複製能力を持ち(感染性があり)ますが、遺伝物質を持たず、「エネルギー変換能力」、「自己と外界との明確な隔離」がありません。病原性プリオンは、感覚的には「結晶」に近い増殖・伝搬様式で、非常に特殊な物質(非生物)だと考えられます。 T4バクテリオファージ自分では増殖することができず、大腸菌細胞に侵入し、その機能を使って増殖します。ある種の寄生生物と言えるでしょう。大腸菌が宿主ですから、海洋生物というよりは、河川などから海洋にもたらされる一時的な滞在者と言えるでしょう。バクテリオファージは、バクテリア(細菌)にとりつき増殖するウィルスの総称です。T4バクテリオファージは、ウィルスの中では、最も複雑で美しい形をしており、ロボットや月面着陸船を連想させます。海の中には無数のウィルスがいることは分かっており、海洋学の分野でウィルスがフェムトプランクトン(体サイズ0.02~0.2 µm)として分類されています。赤潮を衰退させたり、魚に病気をおこしたりすることは知られており、病原体として扱われてきましたが、ウィルスは細菌に分解されたり、原生生物に捕食されたりすることで、餌生物としての役割も果たす一方で宿主の個体数を減らすという点で捕食者的な役割を有しています。栄養塩や解けている有機物は生物に食べられる(取り込まれる)だけですが、ウィルスは生態系において、餌として、また捕食者的として物質の再配分を促進する点で、他の物質とは大きく異なる存在であると言えますが、その役割はまだまだ不明な部分が多くあります。